大学入試風ガンダムクイズ（国語編）
次の文章は、宇宙世紀70年代にジオン・ダイクンが書いたものの一部です。 これを読んで、以下の問いに答えなさい。
『なぜ人類が、宇宙開発に手をつけたかといえば、それは、人が、生きてゆく必然の結果である としかいいようがない。
人は、本来、自然と同居する動物であった。
科学技術の発達によって自然を変革し、支配した時代は、人類全体の歴史の中でも、きわめて 短い時間でしかない。
それ故、自然と同居している間に培（つちか）われた(1)本能的な習性が、人に宇宙開発を行わせた。
しかし、(2)人特有の高いインテリジェンスは、人間を自然から隔離する方法を身につけ、それが 社会全体をも支配、構成していった。
旧世紀末葉までは、地球上の後進国は、自然に左右される社会構造を持っていたが、それも解 消されるにつれて、自然はレジャーの対象以外のなにものでもなくなった。
(3)これは、人類と自然を考える上で、異常なことといえる。
その上、後進国がなくなった時から、旧二十世紀の都市が抱えたのと同じレベルの汚染と窮乏と 混乱を、地球全体が抱えるようになった。
さらに、問題なのは、それらの文化を支える技術が高まれば高まるほど、人は、スペシャリス ト化への道を歩み、一個の人が汎的（はんてき）に能力を開花させることがなくなったことである。
その歪（ゆが）みを埋めるために、新種の宗教が増え、その啓蒙運動は盛んとなった。
が、それらの人々も運動もまた狭隘（きょうあい）なスペシャリスト化現象でしかなく、原始宗教が示したような自然全体の中の人というありようを示唆（しさ）することはなかった。
スペシャリスト化の弊害は、自然と調和して暮らすというのではなく、たったひとつの個人の主義を押し通すための論拠を与えるだけであったりした。
十九世紀までの文化は、たえず自然との格闘と疾病（しっぺい）と王権に代表される専制主義との戦いの歴史であった。
それは、人そのものにも自浄作用を強要した。
それが、人を地球に対して横暴である形を回避させてきた。
病から逃れられれば、それで、人生を良しとする謙虚さが人にはあった。
戦禍という人災であってさえ、自然の暴力に似た対処の仕方をして、人は命をながらえるしか なかったのである。
しかし、近代は、国家の戦争による犠牲でさえも、賠償を要求する大衆を抱えている。それ は、一見、個の権利を国家と同等のレベルにまで高めた。
が、これもまた、個のスペシャリスト化である。
国家が、構成員としての個を国家そのものと同じに置くことは談じてないはずなのに、個人は 主権をうたい、国家をも潰（つぶ）そうと意思する。
そして、そのような個の集団が国家を運営すれば、汎的恣意（はんてきしい）を象徴する国家運営などは、絶望的である。
かつて、自然と対決をしていた人は、個の主権を前面に立てて暮らしてはいなかった。
自然から隔離された社会構造を手に入れ、その社会構造を左右する力を手に入れた時から、人は、己の自意識を振りかざすケースが多くなりすぎたのだ。
そのことによって、人は、人に対して疲れ、人に対してその暮らしを保障することにのみ興味と価値を見出しすぎて、本来の自然との暮らしを忘れたのである。
その人の意思の在り方が、地球の破壊に繋（つな）がる原因を作っていった。
しかし、人は、まだ自然を忘れるところまで堕落してはいなかった。
人を生み出した自然は、途方もなく巨大である。
その巨大な存在に対さなければ、人は、存続し得ないのではないかという人の本能が、人を 宇宙に向わせた。
別の言い方をすれば、人が、己の都合で作った社会構造から生まれる願望、自己保全の欲望などを忘れさせるための機能を、人の生理は持っているのである。
それを忘れれば、人は、滅亡する。
人が、直感的に持つその洞察は正しい。
それ故に、これを本能と言うのである。
その本能が実践させたのが、宇宙開発である。
宇宙開発の意思が確認され、人が宇宙に移民できるようになったのは、人を苛酷（かこく）な自然に置いておくという自然界の処遇の一端でしかない。
この苛酷な自然に生きる必然を背負わされた人は、社会構造が生み出している瑣末（さまつ）な自己保全論に身を託している暇はない。
(4)たとえば、公園の池に柵がなかったために自分の子が死んだ場合、その死因の責任の一端は公園の管理者である市町村にある、と主張するような暇がないのが宇宙なのである。
それは、人にとって苛酷である。
が、苛酷であるが故に、人の都合の論理を唱（とな）え、聞く暇はない。
少なくとも、市町村を非難しようとする思考は、狭隘（きょうあい）ではなかったか？と自省させることはできる。
宇宙は苛酷であるが、人が暮らせるようになった。
なぜか？
もともと、宇宙は、人が暮らしてゆけるスペースであったからに他（ほか）ならない。
むろん、多少の技術的な手法を駆使しなければならない環境ではあったが、その技術を手に入 れることができれば、暮らせる空間であったのだ。
でなければ、宇宙は、もともと人が住めないような物質で埋めつくされていたのではないのだ ろうか？
では、なぜ、宇宙は地球よりも苛酷な環境なのだろう？
地球上での人のインテリジェンスが高まった時、そのインテリジェンスは独善的であろう。
独善的でなければ、狭隘であろう。
その人のインテリジェンスを呑み込む空間として用意されていたのが、宇宙であると考えるの は容易である。
コロニーの事故に対して、スペース公社の責任賠償は存在するものの、それが行使されるより も先に、スペースノイド達は環境保全を第一に考え、それを正義とするようになったのは、いま 始まったことではない。
環境が苛酷であるがばかりに、人は、一人の主権を認めるよりも先に、あらゆる経済的、物質 的なものを環境保全に投入し、その余剰をもって個人の保障に振り向けるという構造をとった。
生きる環境を保全することが第一であって、生き残った上で、個人の主権を尊重するという構 造は、かつて地球上でも、科学文明が進歩していなかった時代の人の思考であった。
それが、自分たちの目に見えない部分での環境汚染には興味を持たず、いつか地球を疲弊さ せていった人に対して、自然が与えた新しい環境である。
それをもってして、人は再び、動物に近い謙虚さを自然に対して持つことを要求されたのである。
これが、宇宙開発の意味である。
技術を駆使した上で、種（しゅ）としての謙虚さを人という動物が持つ機会を与えたのが、宇宙である。
しかし、現在は、まだその認識はなく、ただ、人類の技術力の勝利として受け取っている風潮が強い。
これでは、なぜ、宇宙開発かというテーゼに、人は答えられない』
この文章全体で繰り返し述べられている「人間の本能」とはどのようなものか。 具体的に説明しなさい。
人が、自らを自然から隔離する方法を身につけ、それが社会全体を支配、構成していくにつれて人はどうなっていったか、30字以内で説明しなさい。
なぜ異常なことといえるのか、下線部より以前の文章の中から最も適切と思われる一文を抜き出して答えなさい。
「−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−から」
下線部（４）は何を例えたものか、最も適切だと思われるものを次の中から一つ選びなさい。
ア） 宇宙は、人が住めないような物質で埋めつくされているわけではないことのたとえ。
イ） 人間が、社会構造が生み出している瑣末な自己保全論に身を託していることのたとえ。
ウ） コロニーの事故に対して、スペース公社の責任賠償が存在することのたとえ。
エ） 一人の主権を認めるよりも先に、経済的、物質的なものを環境保全に投入しなければならないことのたとえ。
オ） 環境の不備を訴える以前に環境保全につとめなければ生きていけない苛酷な状況のたとえ。
カ） 人が動物並の謙虚さを持つことになったたとえ。
本文の趣旨に合致すると思われるものを次の中から全て選びなさい。
ア） 宇宙は、人間の独善的な意志を呑み込み、人間に謙虚さを与えるために用意された空間である。
イ） 人類の文化や技術が発展すればするほど、スペシャリスト化した人間は自己保全の欲望が増し、滅亡の危機を招くことになる。
ウ） 科学力の発展の結果、宇宙へ移民できるまでになった人間は、人間本来の持つ欺瞞性をさらけ出すこととなり、現在では前時代的専制政治の様相を示し始めた。
エ） 宇宙開発の意味するところは、支配不可能な環境に身を置くことで人の独善性を排除しようとする無意識から生じるものであって、科学力の発展がなしえたとは言いがたいものがある。
オ） 自然のレジャー化に伴って、新興宗教の啓蒙運動が活発化した結果、人は自然を忘れることなく自然に対して謙虚に振舞うようになった
カ） 自然から隔離された社会構造を手に入れるほどスペシャリスト化した人間は、 確かに地球の破壊につながる原因を作りはしたが、その技術ゆえ、もともと人が住める空間ではなかった 宇宙を人が住めるスペースへと変容させることに成功した。
（講談社：「機動戦士Zガンダム 第四部ザビ家再臨」より出題）
それにしてもこういう文章を読むと改めて「ガンダム」及び「富野監督の思想」の奥深さを感じます。まだまだ「ガンダム」は世間的に「単なるロボットアニメ」としか認知されていない気がしてならないのですが、もっともっと「こんなに凄いものなんだ」と訴えたい、という意思を込めてこのような問題を作ってみました。楽しんでいただければ幸いです。
解答は現在公開しておりません。「教えて！」という方はご一報下さい。